目次(まとめ)

◾️ 積率母関数 \(M_X(t)\) を求めるためには \(e^{tX}\) の期待値を考える

◾️ 互いに独立な確率変数の"和"の積率母関数は、それぞれの確率変数の積率母関数の"積"になる

◾️ 参考文献

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こんにちは、みっちゃんです。

今回の記事では、2012年に行われた統計検定1級の統計数理の問題(問2)を取り上げて、解答を得るための方針について解説します(問題の詳細については、参考文献などをご覧ください)。

この問題では、カイ2乗分布に注目しながら、積率(モーメント)母関数に関わる重要な性質が取り上げられています。

積率母関数 \(M_X(t)\) を求めるためには \(e^{tX}\) の期待値を考える

以前の記事で紹介したように、積率母関数 \(M_X(t)\) は \(e^{tX}\) の期待値として求めることができます。
$$M_X(t) = E[e^{tX}]$$
ここで、期待値は、以前の記事で紹介したように、確率(密度)関数を用いて算出することができます。

この問題では、連続型確率分布であるカイ2乗分布(自由度 \(m\))を考えているので、その確率密度関数 \(f_X(x)\) は以下のように得られます(カイ2乗分布についてはこちらの記事をご参照ください)。
$$f_X(x) = \frac{1}{\Gamma (\frac{m}{2})} (\frac{1}{2})^{\frac{m}{2}} x^{\frac{m}{2}-1} {\rm exp}\{- \frac{x}{2}\}\qquad (x \geq 0)$$
したがって、積率母関数は以下のように求めることができます。
$$\begin{eqnarray} M_X(t) &=& E[e^{tX}] \\&=& \int_0^{\infty} e^{tx} f_X(x) dx \\&=& \int_0^{\infty} {\rm exp}\{tx\} \frac{1}{\Gamma (\frac{m}{2})} (\frac{1}{2})^{\frac{m}{2}} x^{\frac{m}{2}-1} {\rm exp}\{- \frac{x}{2}\} dx \\&=& \frac{1}{\Gamma (\frac{m}{2})} (\frac{1}{2})^{\frac{m}{2}} \int_0^{\infty} x^{\frac{m}{2}-1} {\rm exp}\{tx- \frac{x}{2}\} dx \end{eqnarray}$$
ここで、指数関数の中を最終的に \(- \frac{z}{2}\) の形にしたいので、以下のように変形します。
$$M_X(t) = \frac{1}{\Gamma (\frac{m}{2})} (\frac{1}{2})^{\frac{m}{2}} \int_0^{\infty} x^{\frac{m}{2}-1} {\rm exp}\{- \frac{(-2t+1)x}{2}\} dx$$
ここで、\(z = (-2t+1)x\) とすると、
$$x = \frac{z}{-2t + 1}\\dx = \frac{1}{-2t + 1} dz$$
という関係が得られるので式に代入します。
$$\begin{eqnarray} M_X (t) &=& \frac{1}{\Gamma (\frac{m}{2})} (\frac{1}{2})^{\frac{m}{2}} \int_0^{\infty} \{\frac{z}{-2t + 1}\}^{\frac{m}{2}-1} {\rm exp}\{- \frac{z}{2}\} \frac{1}{-2t + 1} dz \\&=& \frac{1}{\Gamma (\frac{m}{2})} (\frac{1}{2})^{\frac{m}{2}} \int_0^{\infty} \{\frac{1}{-2t + 1}\}^{\frac{m}{2}-1} \frac{1}{-2t + 1} z^{\frac{m}{2}-1}{\rm exp}\{- \frac{z}{2}\} dz\\&=&\{\frac{1}{-2t + 1}\}^{\frac{m}{2}-1} \frac{1}{-2t + 1} \frac{1}{\Gamma (\frac{m}{2})} (\frac{1}{2})^{\frac{m}{2}} \int_0^{\infty} z^{\frac{m}{2}-1}{\rm exp}\{- \frac{z}{2}\} dz \end{eqnarray}$$
ここで、
$$\frac{1}{\Gamma (\frac{m}{2})} (\frac{1}{2})^{\frac{m}{2}} \int_0^{\infty} z^{\frac{m}{2}-1}{\rm exp}\{- \frac{z}{2}\} dz = 1$$
なので、積率母関数は以下のようになります。
$$\begin{eqnarray}M_X (t) &=& \{\frac{1}{-2t + 1}\}^{\frac{m}{2}-1} \frac{1}{-2t + 1}\\&=&\{\frac{1}{-2t + 1}\}^{\frac{m}{2}}\end{eqnarray}$$

互いに独立な確率変数の"和"の積率母関数は、それぞれの確率変数の積率母関数の"積"になる

この問題では、2つの確率変数 \(X\) と \(Y\) が、互いに独立にカイ2乗分布にしたがうとき、それらの和である確率変数 \(Z = X + Y\) がどのような確率分布にしたがうか、問われています。

一般に、確率分布とその積率母関数は1対1対応するので、確率変数 \(Z\) の確率分布か積率母関数を求めることができれば、どのような確率分布にしたがうか判断できますが、上で自由度 \(m\) のカイ2乗分布にしたがう確率変数 \(X\) の積率母関数をつかったので、ここでも積率母関数を使ってみます。

ここで「互いに独立な確率変数の"和"の積率母関数は、それぞれの確率変数の積率母関数の"積"になる」という関係があります。

自由度 \(m\) のカイ2乗分布にしたがう確率変数 \(X\) の積率母関数を \(M_X(t)\)、自由度 \(n\) のカイ2乗分布にしたがう確率変数 \(Y\) の積率母関数を \(M_Y(t)\) とすると、それらの和である確率変数 \(Z\) の積率母関数 \(M_Z (t)\) は以下のように得られます。
$$\begin{eqnarray}M_Z(t) &=& M_X(t) \times M_Y(t)\\&=& \{\frac{1}{-2t + 1}\}^{\frac{m}{2}} \{\frac{1}{-2t + 1}\}^{\frac{n}{2}}\\&=&\{\frac{1}{-2t + 1}\}^{\frac{m+n}{2}}\end{eqnarray}$$
この結果から、確率変数 \(Z\) は、自由度 \(m + n\) のカイ2乗分布にしたがうことがわかります(カイ2乗分布の再生性)。

参考文献

日本統計学会「統計検定1級 公式問題集」実務教育出版

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