目次(まとめ)
◾️ 確率を生み出す確率母関数と、積率を生み出す積率母関数
◾️「2項分布」を例にして、確率母関数と積率母関数の意義を解説
◾️ 確率母関数は、積率を計算する場合にも有用
◾️ 参考文献
こんにちは、みっちゃんです。
以前の記事で、確率母関数や積率母関数について、その定義を紹介しました。
今回の記事では、2項分布を例にして、実際に確率母関数から確率が計算できること、積率母関数から積率が計算できることを解説します。
確率を生み出す確率母関数と、積率を生み出す積率母関数
以前の記事で紹介したように、確率母関数は確率を生み出し、積率母関数は積率(モーメント)を生み出します。
確率母関数は、以下のように与えられます(詳細はこちらの記事をご覧ください)。
$$G_X(s) = E[s^X] = \sum_{k = 0}^{\infty} s^k P(k)\qquad \qquad (*)$$
確率\(P\)を生み出す式に置き換えると、以下のように計算できます。
$$P(k) = \frac{1}{k!} G_X^{(k)}(0) \qquad \qquad (1)$$
積率母関数は、以下のように与えられます(詳細はこちらの記事をご覧ください)。
$$M_X(t) = E[e^{tX}]$$
積率を生み出す式に置き換えると、以下のように計算できます。
$$E[X^k] = M_X^{(k)}(0) \qquad \qquad (2)$$
また、確率母関数と積率母関数の関係は、
$$M_X(t) = G_X(e^t)$$
で得られます。
「2項分布」を例にして、確率母関数と積率母関数の意義を解説
読者の皆さんは「記号ばかりでよくわからない」という感想だと思いますので、例として「2項分布」を例に説明します。
2項分布とは、\(p (0 < p < 1)\)の確率で成功、\(1-p\)の確率で失敗するような実験を\(n\)回行ったときに得られる確率分布です。
成功回数を\(k\)回とするとき、その確率\(P\)は以下のように表現されます。
$$P(Y = k | n, p) = {}_n \mathrm{C}_k p^k (1-p)^{n-k} \qquad (k = 0, 1, 2, ..., n)$$
また、確率母関数\(G_X(s)\)は、以下のように与えられます。
$$G_X(s) = (ps + 1 + p)^n$$
この式から、(1)式を使って、\(k=0\)のときの確率\(P(0)\)を計算しようとすると、
$$P(0) = \frac{1}{0!} G_X^{(0)}(0) = (1 + p)^n$$
となり、\(P(Y = k | n, p)\)の式から計算した確率と同じになることがわかります。
また、積率母関数\(M_X(t)\)は、以下のように与えられます。
$$M_X(t) = (pe^t + 1 - p)^n$$
この式を1回微分すると、
$$M_X^{(1)}(t) = npe^t(pe^t + 1 - p)^{n-1}$$
(2)式を使って、平均\(E[X]\)を計算しようとすると、
$$E[X^1] = M_X^{(1)}(0) = np$$
となり、2項分布の平均\(np\)が算出できます。
また、分散\(\sigma^2\)が\(E[X^2] - (E[X])^2\)で表されることを念頭に、\(E[X^2]\)を計算しようとすると、
$$E[X^2] = M_X^{(2)}(0) = (np)^2 - np^2 + np$$
となり、2項分布の分散\(\sigma^2\)は、
$$\sigma^2 = ((np)^2 - np^2 + np) - (np)^2 = np(1 - p)$$
と算出できます。
確率母関数は、積率を計算する場合にも有用
上の例では、積率を計算するために、積率母関数\(M_X(t)\)を微分しました。
しかし、(*)式にあるように、確率母関数を使って、積率を計算することも可能です。
実際には、以下のように、確率母関数\(G_X(s)\)を\(s\)について微分します。
$$G_X(s) = E[s^X]$$
$$G_X^{(1)}(s) = E[Xs^{X-1}]$$
$$G_X^{(2)}(s) = E[X(X-1)s^{X-2}]$$
これらの式について、\(s = 1\)とすれば、平均や分散を算出できます。
参考文献
久保川達也「現代数理統計学の基礎」共立出版