目次(まとめ)

◾️ デルタ法では、確率変数の平均・分散を使って、確率変数の関数の平均・分散を求める

◾️ 正規分布にしたがう確率変数の関数について、近似的に平均・分散を求める

◾️ デルタ法は、テイラー展開を用いて証明できる

◾️ 参考文献


こんにちは、みっちゃんです。

以前の記事で紹介したように、2013年に行われた統計検定1級の統計応用の医薬生物学分野の問題(問2)において、「デルタ法」によって漸近分散を求めています(漸近分散については、こちらの記事をご参照ください)。

今回の記事では、その「デルタ法」について紹介します。

デルタ法では、確率変数の平均・分散を使って、確率変数の関数の平均・分散を求める

いま、\(a_n(U_n - \theta)\) が \(U\) に分布収束すると仮定して、以下のような関係を考えます。
$$a_n(U_n - \theta) \rightarrow_d U$$
ここで、\(a_n\) は数列、\(U_n\) は確率変数、\(\theta\) は定数です。以前の記事で紹介したように、\(n \rightarrow \infty\) とすると、確率変数 \(U\) に分布収束します。

この仮定が成り立つとき、以下の関係が成り立ちます(細かい条件は参考文献などをご覧ください)。
$$a_n(g(U_n) - g(\theta)) \rightarrow_d g'(\theta)U$$
ここで、関数 \(g(\cdot)\) は連続微分可能な関数を意味しています。

この関係が成り立つことを示す定理を「デルタ法」と呼びます。

また、以下の関係が成り立つと仮定します。
$$\sqrt{n}(U_n - \mu) \rightarrow_d N(0, \sigma^2)$$
このとき、以下の関係が成り立ちます。
$$\sqrt{n}(g(U_n) - g(\mu)) \rightarrow_d N(0, \sigma^2 \{g'(\mu)\}^2)$$

正規分布にしたがう確率変数の関数について、近似的に平均・分散を求める

ここでは、デルタ法を実際に使う手順について紹介します。

いま、確率変数 \(X\) が、平均 \(\mu\)、分散 \(\sigma^2\) の正規分布にしたがうと仮定します。
$$X \sim N(\mu, \sigma^2)$$
デルタ法により、連続微分可能な関数 \(g(\cdot)\) を使って、確率変数 \(X\) の関数の平均・分散を近似的に求めることができます。
$$g(X) \rightarrow_d N(g(\mu), g'(\mu)^2 \sigma^2)$$

デルタ法は、テイラー展開を用いて証明できる

テイラー展開の公式を用いて、\(\mu\) のまわりで、\(g(X)\) を第2項まで展開すると、以下のように表現することができます。
$$g(X) \approx g(\mu) + \frac{g'(\mu)}{1!} (X - \mu)^1$$
このテイラー展開を利用して、\(g(X)\) の平均を考えることができます。
$$\begin{eqnarray}E[g(X)] &=& E[g(\mu) + g'(\mu)(X - \mu)]\\&=&E[g(\mu)] + E[g'(\mu) X] - E[g'(\mu)\mu]\\ &=& g(\mu)\end{eqnarray}$$
同じように、分散を考えることができます。
$$\begin{eqnarray}V[g(X)] &=& V[g(\mu) + g'(\mu)(X - \mu)]\\&=& V[g(\mu)] + V[g'(\mu) X] - V[g'(\mu)\mu]\\ &=& \{g'(\mu)\}^2 V[X] \\&=& \{g'(\mu)\}^2 \sigma^2\end{eqnarray}$$

参考文献

久保川達也「現代数理統計学の基礎」共立出版