目次(まとめ)
◾️ 漸近分散は、フィッシャー情報量の逆数として算出できる
◾️ 対数尤度関数から漸近分散を算出する例
◾️ 参考文献
こんにちは、みっちゃんです。
今回の記事では、2013年11月の統計検定1級「統計応用(医薬生物学)」で出題された問題を取り上げながら、漸近分散を求める方法について解説します。
漸近分散は、フィッシャー情報量の逆数として算出できる
ここでは、確率変数 \(X\) が \(f(x|\theta)\) にしたがうとき、\(n\) 個の標本から推定した \(\theta\) の推定値を \(\hat{\theta}_n\) と表記します。
1個のデータのフィッシャー情報量を \(I_1(\theta)\) 、推定量 \(\hat{\theta}_n\) の漸近分散を \(\frac{1}{I_1(\theta)}\) とするとき、以下のような関係が成り立つとき、\(\hat{\theta}_n\) が漸近有効であるとされます。
$$\sqrt{n}(\hat{\theta}_n - \theta) \rightarrow_d N(0, \frac{1}{I_1(\theta)})\qquad (*)$$
ここで、"\(\rightarrow_d\)"は分布収束を示しています(分布収束については、こちらの記事をご参照ください)。
フィッシャー情報量とは、確率変数 \(X\) が母数 \(\theta\) に関してもつ情報量のことであり、対数尤度関数 \({\rm log} f(X_i | \theta)\) を \(\theta\) で2階微分したものの期待値として算出することができます(対数尤度関数については、こちらの記事をご参照ください)。
$$I_1(\theta) = -E[\frac{d^2}{d \theta^2} {\rm log} f(X_i | \theta)] \qquad (**)$$
対数尤度関数から漸近分散を算出する例
いま、以下のような対数尤度関数が得られている状況を考えます(詳しくは、2013年11月の統計応用(医薬生物学)の過去問をご参照ください)。
$$l = {\rm log} L = n_1 {\rm log} \lambda_1 + n_2 {\rm log} \lambda_2 - \lambda_1 T_1 - \lambda_2 T_2$$
ここで、パラメータは \(\lambda_1\) と \(\lambda_2\) の2つで、\(T_1\) と \(T_2\) は定数であるとします。
以前の記事で紹介した最尤法のように、対数尤度関数をパラメータで偏微分します。
$$\frac{\partial l}{\partial \lambda_1} = \frac{n_1}{\lambda_1} - T_1\\\frac{\partial l}{\partial \lambda_2} = \frac{n_2}{\lambda_2} - T_2$$
これらをさらにパラメータで偏微分すると、以下のようになります。
$$\frac{\partial^2 l}{\partial \lambda_1^2} = -\frac{n_1}{\lambda_1^2}\\\frac{\partial^2 l}{\partial \lambda_2^2} = -\frac{n_2}{\lambda_2^2}$$
これらの式から \((**)\) により、フィッシャー情報量として、\(\frac{n_1}{\lambda_1^2}\) と \(\frac{n_2}{\lambda_2^2}\) が得られます。
したがって、\((*)\) により、漸近分散は \(\frac{\lambda_1^2}{n_1}\) と \(\frac{\lambda_2^2}{n_2}\) になります。
参考文献
- 久保川達也「現代数理統計学の基礎」共立出版
- 日本統計学会「統計検定1級 公式問題集」実務教育出版